M&Aの初期的情報の開示内容とタイミング
M&A取引については、どのタイミングで自社情報を開示するかは考える必要があります。
初期的情報開示の段階で、買主にとって満足がいくレベルの情報を開示したほうがいい場合もあります。
例えば、売主が売却を急いでいる場合、不人気業種や不人気企業の売却の場合などが挙げられます。この場合、売主の立場としても、後々のDD対応が楽になるというメリットがあります。
上に例示したように、初期的検討段階で、買主にどの情報をどれだけ開示して、何をDDにおいて開示するかについては、売買当事者それぞれの魅力度や属する業界、あるいはM&Aにかける本気度などを総合的に勘案しながら判断します。
いずれにせよ、どの時点でどのような情報を開示するかについては売主がコントロールできる部分であることから、買主との関係性や交渉力の強弱などの状況も鑑みながら、このアドバンテージをうまく活用された方がよいです。
初期的惰報の開示のポイント
初期的情報を、インフォメーション・メモランダム(IM)の形で開示する場合が多いと思います。IMの内容は、ある程度、記載されることが決まっています。
以下のことは、特に注意すべきです。
買主への積極的なアピール
M&Aプロセスの初期段階では、買主が対象会社の買収に極めて強い関心があるというまでには至らなくても、売主にM&Aを打診してくるケースがあります。
その買主が売主にとって決して望ましい相手と考えられないならば、前に進めず断ってしまうことも1つの選択肢です。
一方で、売主がもともと期待していたような相手であるならば、買主の買収意欲を高め、M&Aプロセスを次々と進めていくべく能動的なアクションをとることが望ましいです。
確かに、買主は、特にM&Aの検討初期の段階では、企業の通信簿である過年度の決算数値といった定量的な情報に基づき、直感的に買収候補のよし悪しを見極めがちである。しかしながら、以下に述べるような方法で、買主の買収意欲を高めることは可能です。
経営理念やビジョンについて熱意を持って伝える
長年守り続けてきた企業の経営理念やビジョン(ありたい姿)について熱く語ることにより、買主から強い共感を引き出せる可能性があります。
ただし、ビジョンとして話す内容は現実性を伴っていることに注意を払う必要があります。
過度に楽観的でリアリティの欠けるビジョンは、買主から実現可能性に乏いいと見破られ、買収意欲を高めることにつながらない可能性のほうが大きいです。
買収することで得られるベネフィットに気づきを与える
M&Aを通じて買主が享受するシナジーは、本来買主自身で考える必要がるが、売主や対象会社から能動的にシナジーのアイデアを提案し買主とディスカッションします。
対象会社が貢献できると思うところはどんどんアピールしていき、買主に新たな気づきを与えることができると望ましいです。
買主に先回りした質問を投げかけ、前向きに対応する
買主にM&Aを進めるうえでの困りごとや懸念材料について逆に質問を投げかけます。
例えば、買収後の引継ぎとして買主は何を対象会社や売主に求めているかをヒアリングし、それに対して売主はどのように協力できるか積極的に提案したり、前向きな議論を行います。
DD(デューデリジェンス)での初期対応の注意点
DDは売主にとって最も受け身なプロセスです。特にDDで会社の秘密情報を開示することに対して心理的抵抗感を示すことが多いです。
しかしながら、DDで必ず開示が求められるような情報は買主からリクエストされる前に先回りして開示するなど、売主が積極的な対応を示すと、売主としても次のようなメリットが期待できます。
- 買主は対象会社をより綿密に分析できるようになり、DDの時点でシナジー効果の定量化まで行える可能性が高まります。よって、売主にとって有利な条件を引き出すことが期待できます
- 買主からの心証がよくなるため、買主はより安心感を感じるようになり、その結果、信頼関係の醸成にもつながることから、クロージングの可能性が高まる
- DDが長期間に及んだり、買主からいたずらに詳細な情報開示リクエストがなされることが回避でき、DDの対応にさほど大きな負担を要しないことが期待できる
上記とは逆にDDに消極的な対応をとると、買主は事業リスクを高く見積り、取引金額や表明保証条項などにおいて、買主から不当に不利な条件が提示されるリスクが高まる。
ちなみに、ある報告では買主がM&Aを止める選択した際の理由の1位に挙げたのが「判断材料としての情報が不足していた」ということであり、その1の点からも積極的な情報開示が求められます。